石川県

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未来への一歩を支える場、こども食堂の可能性

「公開ワークショップ 話そう!広めよう!食べるだけじゃない!?こども食堂で起きていること」in 石川 開催レポート

全国47都道府県で実施している『公開ワークショップ 話そう!広めよう!食べるだけじゃない!?こども食堂で起きていること』、23回目の開催地は石川県。2024年12月1日、駅西福祉健康センター 大ホールにて開催されました。

石川県内には98カ所のこども食堂が開設されていますが、市、町内にまだ1カ所もこども食堂が存在しない地域もあり、石川県では県内すべての市、町でこども食堂を開設しようという目標を掲げています。その施策として2024年度、未開設の地域で新たにこども食堂を始めようと考えている団体や個人へ補助金を交付するなど、積極的な支援を行っています。また、能登地域では2024年1月に発生した能登半島地震の影響で、いまだ再開が叶っていないこども食堂も。他地域からの応援によって出張こども食堂が開催されているケースも数多くみられますが、今後は市区町村レベルでの支援や県内の新規企業の理解を得ていきたいという課題があります。

今回は能登地域のこども食堂の復活も含め、新規開設を希望している方たちに向けて、横のつながりを持つことで不安を解消し、安心して前進してほしいという想いからワークショップを開催しました。

登壇者のみなさまには、実際にこども食堂で出会った人たちとの印象深いエピソードを語っていただきながら、こども食堂の価値について考えました。

安心と支えの拠点、 それがこども食堂

本ツアーで実施するワークショップでは、こども食堂の運営者のみなさまに、1人ずつ「活動して印象に残っているエピソード」を伺います。どのエピソードも、気づきがあったり、心が温まったりするものばかり。そのうちいくつかを抜粋してご紹介します。

お母さんたちを支えるお弁当 

窪高見台こども+おとな食堂(金沢市) 波並ふみ子さん:

2023年の10月から2024年9月まで、私たちのこども食堂に来てくださる常連さんの出産ラッシュが続いていました。特に思い出深いのは、2024年9月のこども食堂の開催日のことです。突然「すみません、陣痛が来たので、予定より早めに来ました!」と飛び込んできたのは3人目のお子さんを妊娠中のお母さんでした。その方は、普段自宅から職場まで車で1時間ほどの通勤の途中にある私たちのこども食堂に夕食を取りに来ていました。はじめのころは一人目のお子さんと、生まれたばかりの二人目のお子さんを抱いて来ていたのを思い出します。その後、育児休暇を経て働きだし、今回が三人目の出産。お弁当を取りに来てから3時間後、無事出産の連絡があり胸をなでおろしました。

6人目の子どもを出産される方や、しばらくパパとばかり来るなと思っていたら次の子どもが生まれたご家族があったり。少子化と言われる世の中ですが、私のこども食堂に来る方には今のところ当てはまりそうにありません。LINEで生まれたばかりの子どもの写真を送ってくださったり、実際に「抱っこしてください」と足を運んでくださったりする方もいて嬉しい限りです。お母さん方の安心できる場所であり続けるために、お弁当で少しでもお母さん方に力添えができたらと思って日々がんばっています。

窪高見台こども+おとな食堂(金沢市) 波並ふみ子さん

子どもたちの安心からうまれる希望

明成こども食堂いいじー(金沢市) 仲川恵梨さん:

こども食堂を開設している明成地区は、私にとって生まれ育った場所であり、知り合いも多く、安心できる場所でもあります。家庭を持ち、子育てをするようになって、自分や地域の子どもたちにも同じように過ごしやすい環境をつくってあげたいという思いから、多くの人が知り合えるこども食堂を開設しました。

5年前に始めた当初、賛同してくれたママ友はみな、幼稚園や小学校に通う小さな子どもの子育て中。日中は手伝えても夜の時間帯は難しいという状況でした。ちょうどそのとき、石川こども食堂ネットワークの方から「通信制高校の学生が放課後に手伝いたいと言っている」という話を聞き、来てもらうように。はじめはお互いに緊張していたのですが、回数を重ねるごとにこちらから指示を出さなくても、机を設置してくれたり、ご飯を運んでくれたりと自主的に動いてくれるようになりました。学生の中に、家庭でも学校でも自分の気持ちを話せないという女の子がいました。しかしボランティアで通っているうちに、食堂のスタッフに胸の内を打ち明けられるように。満月を見ながら女子高生とスタッフが話をしている後ろ姿を見たときのことは、今でも脳裏に焼き付いています。彼女は大学生になってからもときどき手伝いに来てくれています。地域の子どもたちの安心の場になればと思って始めたこども食堂。最初に予想していた居場所づくりの形とは違っていますが、ボランティアの子どもたちの成長も見守ることができ、彼らの居場所にもなっている気がして、始めてよかったと感じています。

明成こども食堂いいじー(金沢市) 仲川恵梨さん

個性が集まるこども食堂の絆 

段差のない家(内難町) 清水大夢さん:

毎週水曜日に「大人はワンコイン、子どもは無料」というコンセプトでこども食堂を運営しています。私の黒タンクトップに赤い髪、金ネックレスという見かけから、こども食堂を連想しにくいかもしれませんが、髪の毛を染めたのは、子どもたちに自分らしさを大切にしてほしいと思ったからです。こども食堂は、夕方5時を過ぎると小中学生が入り混じってとても賑やかになります。中には学校では見た目で「不良」とレッテルを貼られたり、勉強が苦手だったり、学校に行けなかったりとさまざまな背景を持った子どもたちも多くやって来ます。

印象深かったのは、学校に通えず、放課後デイサービスの職員と一緒にこども食堂に来ていた子が、同い年のグループの子どもたちと仲良くなったこと。彼は中学に通えなかったので、高校に進学しても友だちができないのではないかと不安を抱えていました。ところがこども食堂で仲間と出会えたことから、気持ちが軽くなり、これならば高校生になっても楽しく過ごせると喜んでいるそうです。また、仲の悪かった中学生のグループ同士が、こども食堂で同じ時間を過ごすうちにいつの間にか仲良くなったということもありました。私自身21歳と、子どもたちと年齢が近いので、友達感覚で話しやすいのも安心してもらえる要因になっているのかもしれませんが、こども食堂が「好きなものを食べ、背景の違う子どもたち同士仲良くなれる居場所」になっているのを感じています。

今後は子どもたちにいろいろな体験をさせてあげられるイベントの企画をしたり、出張こども食堂なども検討していきたいと思っています。

段差のない家(内難町) 清水大夢さん

こども食堂は心が開く場

登壇者から印象に残っている変化のエピソードを伺った後は、会場のみなさんに気になったエピソードや意見を伺う時間を設けました。また、こども食堂の価値についても話し合いました。会場のみなさんの意見から一部をご紹介します。

――こども食堂が実家のような安心感を生み出し、出産しやすい環境をつくってくれているのだなと思った。

――学校に行けない子も、場所を変えるだけで自分らしさが出てきたり、境遇の違う人たちと仲良くなれたりすることを知って、こども食堂が心を拓ける場になっていると感じた。

――こども食堂を運営しているが、他の食堂の運営について知ることができ、参考にしていきたい。

また、グループトークの後にはこども食堂を応援している企業の事例紹介も行われ、「応     援や支援を広く呼びかける場としてよい試みだと思う」「支援企業としてこれからますます力を入れていきたい」などの意見が寄せられました。

こども食堂で未来を見よう!

こども食堂の在り方は、訪れる人や地域によってそれぞれ違いますが、安心の場所になっていたり、未来へつながる新しい出会いの場所になったりしているようです。ワークショップでは、こども食堂という場がどんな価値を生んでいるのかを見つめ直す人たちの熱い想いを感じることができました。このレポートを読んでくださった方も、「食べるだけじゃない」を体験しに、ぜひお近くのこども食堂に足を運んでみてくださいね。

石川県でこども食堂の運営に尽力されているみなさん、ワークショップへのご協力を誠にありがとうございました!

【開催概要】

「公開ワークショップ 話そう!広めよう!食べるだけじゃない!?こども食堂で起きていること」in 石川

開催日:2024年12月1日(日)13:00-15:30

開催場所:駅西福祉健康センター 大ホール(石川県金沢市)

主催:NPO法人ささえる絆ネットワーク北陸、 全国こども食堂支援センター・むすびえ     

協力:金沢学院大学芸術学部広根ゼミ・おおくわこども食堂

登壇者:土井裕平(おおくわこども食堂/金沢市)、喜成清恵(かなざわっ子nikoniko倶楽部/金沢市)、波並ふみ子(窪高見台こども+おとな食堂/金沢市)、清水大夢(段差のない家/内難町)、仲川恵梨(明成こども食堂いいじー/金沢市)※こども食堂名五十音順

ファシリテーター:森谷哲(全国こども食堂支援センター・むすびえ)