山口県

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アフターコロナの時代、新しいこども食堂のかたちを考える 

「公開ワークショップ 話そう!広めよう!食べるだけじゃない!?こども食堂で起きていること」in 山口 開催レポート

こども食堂10周年記念全国ツアー「公開ワークショップ 話そう!広めよう!食べるだけじゃない!?こども食堂で起きていること」。
全国47都道府県でワークショップを開催しよう!という本ツアー、第10回目の開催地は山口県。2023年10月8日、山口県周南市徳山保健センターにて開催されました。

山口県内にあるこども食堂の数は、2023年7月時点で約170カ所。その半数がコロナ禍に開設されたため、会食形式での開催をしたことのないこども食堂が多くあります。また、他の食堂との交流や情報交換が行えずに今後の運営に不安を感じている食堂も多く、食堂同士の横のつながりを作ることが課題になっていました。今回、「アフターコロナ」のこども食堂の在り方を考えたいという主催者の呼びかけに、高校生や大学生のボランティアやこども食堂を検討している方などを含めて50名の参加者が山口県の幅広い地域から集結。登壇者から実際に起きた印象に残った出来事を聞いた後で、新しい気づきや意見が活発に交換される、和気あいあいとした会となりました。

現在こども食堂を運営されている方々は、地域の人々との出会いの中で何を感じ、どんな気づきを得てきたのでしょうか。登壇者のみなさまに、これまで実際に出会った人たちとの印象深いエピソードや食堂の魅力について語っていただきました。

可能性のうまれる場所、 こども食堂

本ツアーで実施するワークショップでは、こども食堂の運営者のみなさまに、1人ずつ「活動していてよかったエピソード」を伺います。どのエピソードも、気づきがあったり、心が温まったりするものばかり。そのうちいくつかを抜粋してご紹介します。

一食のありがたみが紡いだ糸

小郡みんな食堂(山口市) 原田浩さん:

こども食堂を知ったのは、3人の子どものシングルファーザーとして利用したことがきっかけです。そのとき、たった一食がどんなに親を、そして子どもを救うかを実感しました。一食のありがたみを感じたことが手伝いを始めるきっかけになっています。

運営者になってから、夏休みに小学2年生の女の子がこども食堂の手伝いをしに来てくれたことがあります。まだ小さいので他の人と同じような仕事ができるか心配でしたが、身長が170センチ以上もある高校生と並んでもくもくと作業していました。その後姿を見たとき、年代も環境も超えて同じ方向を見て作業する光景がこども食堂にあることに胸を揺さぶられました。さまざまなものが「たいせつな糸」でつながっている、そんな想いがわき上がってくるのを感じたのです。

こども食堂を支えてくれる人は、普段は仕事も職種も違う人たちですが、こども食堂にいるときは皆が同じ方向を向いているのをしみじみと感じています。

小郡みんな食堂(山口市) 原田浩さん

大きな家族になる場所

川中れんげホーム(下関市) 道中朋子さん:

私たちのこども食堂では学習支援を併設しており、大学生の方々にもお手伝いいただいています。

先日のこと。中学3年生の女の子が大学生のお兄さんに、将来学校の先生になりたいという進路の話をしていました。「先生になるためには教育学部で学ぶのが当たり前」と思っていた女の子に対し、大学生のお兄さんは「他の学部で学んで先生になる人もいる」という話をしてくれました。新しい選択肢を知り、視野の広がる体験をしたのは女の子だけでなく、私たちも同様でした。学習支援は子どもたちと遊んだり、宿題を見てくれたりというイメージしかありませんでしたが、思いもよらない寄り添い方に驚き、感動しました。

進路の話は両親から聞くこともあるかもしれませんが、生きた人生相談の場が生まれたことに喜びを感じています。15歳の中学生にとって大学生は、年齢的に遠いようで近い、けれど     身近ではない存在。こども食堂の場で交流が生まれ、大きな家族のようにお互いがより身近な存在になっているのを感じています。

川中れんげホーム(下関市) 道中朋子さん

大人の役割は子どもが活躍できる場を提供すること

まちふく食堂(防府市) 田中博士さん:

実際の開催はまだ2回ですが、1回目は40人、2回目も60人と多くの子どもたちが来てくれました。中でも熱量の高い子どもたちが自主的にエプロンやバンダナを持参し、着替えて手伝いをしてくれるほどでした。その様子を見て、11月には子どもが活躍できる「こども活躍食堂」を開催する予定でいます。小学5年生4人が毎週打合せをし、チラシやメニューを考え100食提供を目指しています。無理だという人がいるかもしれませんが、やってみなければわかりません。ルールや決まりがないこども食堂だからこそ、子どもたちは自分で考え、成長していきます。「子どもたちのため」という言葉には、大人が子どものやりたいことをサポートしてあげる、そんな意味があってもいいのではないかと思っています。いろいろな人とつながれるこども食堂で、これからどのように活動が広がっていくか未知数ですが、実現するために協力していきたいと思っています。

まちふく食堂(防府市) 田中博士さん

こども食堂は、多様な人を受け入れる場所

こども食堂を運営している方々の声をうけて、参加者のみなさんでグループに分かれてディスカッションを行いました。その一部をご紹介します。

――高齢者が持っているものを子どもに教えたり、子ども側が高齢者にいい刺激を与えたり、お互いに関わる機会があることが重要だと思いました。

――小さな子どもから高齢者まで、地域のみんなが家族のようにごちゃ混ぜになって挨拶しあえる地域にしていきたいと思います。自分は大学生ですが、こども食堂の活動にも積極的に参加して勉強していきたいです。

――子どもたちの安心も大事ですが、運営する側も含めて皆が幸せになって安心することが大切だなと思いました。

――学校でルールや型にはめられ、居心地が悪くなったり、居場所がなかったりする子も多いのが昨今。そういう人たちの居場所になることも大切だと感じました。

――子どもたちがやりたいことを考えて、主体性を持ってできることはよいこと。大学生である自分も責任を持って行動することの大切さに気付きました。

ディスカッションの様子

これからのこども食堂を描こう!

コロナ禍で立ち上がったこども食堂も多いことから、会食形式の開催に二の足を踏む団体が多いことも課題だった山口県のこども食堂。リアルに顔を合わせる機会ができ、これからのこども食堂について想いをはせるよい時間になりました。

また本会の終了後、このワークショップに参加した大学生たちが実際にこども食堂の運営を始めたとの話も伺いました。登壇者のお話や、ディスカッションでの対話が、着実に地域の活動へと広がっています。

山口県でこども食堂の運営に尽力されているみなさん、ワークショップへのご協力を誠にありがとうございました!

【開催概要】

「公開ワークショップ 話そう!広めよう!食べるだけじゃない!?こども食堂で起きていること」in 山口

開催日:2023年10月8日(日)13:30-15:00

開催場所:山口県周南市徳山保健センター(山口県周南市)     

主催:山口県こども食堂・子どもの居場所ネットワーク、全国こども食堂支援センター・むすびえ 

登壇者:原田浩(小郡みんな食堂/山口市)、道中朋子(川中れんげホーム/下関市)、江見寿恵(10日だヨ!全員集合食堂/周南市)、田中博士(まちふく食堂/防府市)、新川陽子(みんな食堂赤子山/平生町)

※こども食堂名五十音順

ファシリテーター:久米麻子(特定非営利活動法人全国こども食堂支援センター・むすびえ)