島根県

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出会う、つながる、もうひとつの居場所

「公開ワークショップ 話そう!広めよう!食べるだけじゃない!?こども食堂で起きていること」in島根 開催レポート

こども食堂10周年記念全国ツアー「公開ワークショップ 話そう!広めよう!食べるだけじゃない!?こども食堂で起きていること」。

全国47都道府県でワークショップを開催しよう!という本ツアー、第5回目の開催地は中国地方に場所を移し、島根県から。2023年1月28日、島根県立美術館ホールにて開催されました。

ここ数年でこども食堂の数が60カ所以上に増加した島根県。来訪者も子どもだけでなく多世代にわたり、地域の交流の場として認知度が上がってきています。しかし一部では、いまだにこども食堂が貧困対策の場だという認識が残っていることも否めません。こども食堂の増加を受け、今後は食堂間や行政との連携も課題になってきそうです。

現在開催しているこども食堂は、どのようにして地域の人々との関係を築いてきたのでしょうか。登壇者のみなさまに、これまでに出会った人たちとの印象深いエピソードや食堂の魅力について語っていただきました。

出会えてよかった! こども食堂

本ツアーで実施するワークショップでは、こども食堂の運営者のみなさまに、1人ずつ「活動していてよかったエピソード」を伺います。その後、参加者のみなさんに感想をお聞きしました。

どのエピソードも、気づきがあったり、心温まったりするものばかり。そのうちいくつかを抜粋してご紹介します。

第三の居場所で得るもの

あさ学・あさ食・子どもの会(松江市) 片山博子さん:

ある生徒の話です。

小学校時代にとても活発な子だった彼女は、中学校に入学してから教室に入ることができなくなってしまいました。当時から子どもの居場所の大切さを感じ、こども食堂を開いていた私は、彼女を月に1日だけ開催しているこども食堂の日に誘いました。最初は私に会うことだけを楽しみに通ってくれていましたが、少しずつ食堂に集う他の中学校の生徒たちと話ができるように。やがて、「学校の弁論大会でこども食堂での経験を話したい」と、再び教室に足を踏み入れることができたのです。教室でクラスメイトを前に彼女が語ったのは、両親への感謝の気持ちと、「将来は人を支える仕事に就きたい」という話でした。じっくり話や相談ができる空間であることや、異学年、異年齢という開かれた関係が存在することが、こども食堂の大切さだと感じています。

あさ学・あさ食・子どもの会(松江市) 片山博子さん

アンテナを張っていたからこそ出会えたもの

わくわく食堂(出雲市) 杉原一平さん:

私たちの食堂は、お弁当を予約制で配付しているのですが、あるとき時間になっても取りに来られなかった方がいました。電話をしてもつながらず、ようやく連絡が取れたのは終了時間を過ぎてから。家の近くまで届けに行くと、疲れ切った表情の女性が、1週間前にご家族が亡くなったことを打ち明けてくれました。

お弁当を「届ける」という自分の行動は、振り返ってみるとやりすぎだったかもしれません。しかし一方で、異変を感じ、動けたからこそ、その方に出会うことができ、大変さを抱えているご家庭の状況を知ることができました。これからもアンテナを張って、先につなげる一歩を大切にしていきたいと思います。

わくわく食堂(出雲市) 杉原一平さん

「ドン底」を味わった母でも輝ける場所

島根県内の食堂 田中陽子さん(仮名):

食堂によく通ってくださる方の中に、お子さんが不登校になったご家庭がありました。あるとき、お子さんよりも落ち込んでしまったお母さんが、「苦しい」と電話をかけてきてくれまして。お話を聞いていくうちに気持ちも落ち着かれ、お母さんが得意な手芸をこども食堂のお祭りで販売しようかと提案したところ、生き生きと輝き始めたのです。

ですからこのお母さんにも、こども食堂で元気を取り戻すきっかけを見つけてもらえたらと思ったのです。

今では、食堂の調理スタッフとして手伝ってくれるまでに元気になられました。居場所を求める不登校の子どもたちの支援は必要だと思いますが、苦しんでいるお母さんたちへ手を差し伸べることも大切なのだと感じています。

島根県内の食堂 田中陽子さん(仮名)

こども食堂は、新たな関係がうまれる場所

こども食堂で出会った人たちのエピソードや、相手に一歩踏み込んでみたからこそ見えてきたものについて、実際の運営者の声を聞き、参加者のみなさんから感想が寄せられました。一部をご紹介します。

――まさに公ができないことをやってくれていると感じました。相談できる場所の選択肢がたくさんあることで、新しい関係性をつくっていくことができるのだと思いました。

――普段と違うことに気が付く力、そしてすぐに動ける力、ファーストリーチが素晴らしいと思いました。

――「仕方がない」で終わってしまうのではなく、「なぜ?」と発想を転換してアプローチしているエピソードが胸に響きました。

――不登校の子どもたちにとっても、第3の居場所として、こども食堂が大きな役割を担っているのだと感じました。

――このような交流の場を開催することで、お互いの食堂の違いや良いところを認めあえるのも素晴らしい取り組みだと思いました。

こども食堂で出会おう!

登壇者のみなさまは、それぞれにこども食堂を介して出会ったお母さんや子ども、地域の方たちとの関係が変化していく経験をお話しくださいました。

こども食堂の価値を改めて見つめなおし、他の食堂の経験談に刺激を受けてさらに前進していく、可能性を感じる時間でした。

島根県でこども食堂の運営に尽力されているみなさん、ワークショップへのご協力を誠にありがとうございました!

【開催概要】

「公開ワークショップ 話そう!広めよう!食べるだけじゃない!?こども食堂で起きていること」in島根

開催日:2023年1月28日(土)13:30-16:00

開催場所:島根県立美術館ホール(島根県松江市)

主催:社会福祉法人島根県社会福祉協議会、特定非営利活動法人全国こども食堂支援センター・むすびえ

登壇者:片山博子(あさ食・あさ学・子どもの会/松江市)、高橋賢史(多世代交流食堂みーる堂/大田市)、吉川郁子(なないろ食堂/松江市)、杉原一平(わくわく食堂/出雲市)、深津富美子(輪や和や食堂/出雲市)、ほか1名

※こども食堂名五十音順

ファシリテーター:湯浅 誠(特定非営利活動法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長)