作り手の個性が光る、十人十色のこども食堂
「公開ワークショップ 話そう!広めよう!食べるだけじゃない!?こども食堂で起きていること」 in 長崎 開催レポート
全国47都道府県で実施している「公開ワークショップ 話そう!広めよう!食べるだけじゃない!?こども食堂で起きていること」、第16回目の開催地は長崎県。
2024年3月3日、島原文化会館にて開催され、こども食堂の関係者を中心に101人の方が参加しました。
最初に長崎県でこども食堂が確認されたのは、2015年。現在では長崎市を中心に約70カ所のこども食堂が開設されています。企業や保育園が運営しているこども食堂もあり、多様な団体がこども食堂の担い手となっています。
それでは、今回も登壇者のみなさまが実際に経験したエピソードをもとに語られた、「食べるだけじゃない」こども食堂の魅力をご紹介します。
属性や立場は関係なく、誰もが楽しめるのがこども食堂
本ツアーで実施するワークショップでは、こども食堂の運営者のみなさまに、1人ずつ「忘れられないエピソード」を伺っています。どのエピソードも、ハッとさせられたり、心温まったりするものばかり。特に印象的だったエピソードを抜粋してご紹介します。
スタッフは全員高校生。高校が舞台のこども食堂
パクパク食堂(諫早市) 川井和さん:
私たちのこども食堂は、高校生のみで運営をしています。私は、両親が共働きで帰りが遅いことが多く、なかなか家族みんなが揃ってご飯を食べることができませんでした。だからこそ、みんなでご飯を食べることができるこども食堂が大好きになりました。 こども食堂の魅力はいろいろな人に出会えることだと感じています。ところが、子どもやその親、高齢者もよく来ているけれど、高校生の姿を見かけることは少ない。自分と同じ高校生にもこども食堂の楽しさを知ってほしいと思い、2023年10月に自分が通う高校で、こども食堂を開催することにしました。企画した当初は大変でした。校外から多くの人が来るため、学校との交渉は安全面から難航。粘り強く交渉してOKをもらったものの、クラスメートの反応は鈍いものでした。しかし、会場装飾に使う折り紙を折ることをお願いしたことがきっかけで、手伝いたいという人やこども食堂に来てみたいという人がだんだん増えていきました。手間のかからない小さなことからお願いしたのがよかったようです。当日は、こども食堂以外のイベントも企画し、400人以上の方が参加されました。現在は、学校での2回目の開催に向けて準備の真っ最中。私以外のメンバーも活躍できるように、前回からやり方を見直して取り組んでいます。
みんなの思いで進化するこども食堂
つながる食堂(長崎市) 西田広子さん:
私たちのこども食堂は、夏休みや春休みなど学校の長期休みの土曜日に、長崎市役所内のレストランで開催していて毎回150食を準備しています。最初は遠慮がちだったお母さんたちも、だいぶリラックスして来てくれるようになったと感じています。「もっとこうだったらいいのに」と声をかけられることも増え、できるだけお応えしながら、より利用しやすく変化してきています。また、複数の障害福祉施設から10人ほどがスタッフとして活躍していて、地域の人たちと接する機会としても喜ばれています。ただ作業をするだけでなく、自分たちがどうしたらやりやすいのか考え、改善提案をあげてくださることも。たとえば、参加者に配るプレゼントを番号で判別するのは難しいので、色付きのシールを使ったオペレーションに変えようという案が出されたりしました。現場で気づいたことを教えてもらえるのは本当にありがたいこと。改善案が採用されるのは、スタッフのやりがいにも繋がるので、前向きに検討しています。こうして、参加者やスタッフの声が反映されて、みんなで創り合う雰囲気が生まれていることが、とても嬉しいですね。
一人でも、よそ者でも。誰でも受けとめてくれる場所
101わんさか食堂(西海市) 加藤嵩啓さん:
私たちのこども食堂は海沿いのコミュニティスペースで運営しています。人口300人ほどの小さな地区で、多くの人が第一次産業に関わり、野菜や魚の寄付が多いのも特徴です。1年ほど前、コミュニティスペースに朝5時ごろから夕方7時ごろまで、ずっと何もせずに座っている男性が現れました。話を聞くと、釣りをしながら流れ着いた漁師の方で、現在は家族と離れて1人で暮らしているとのこと。それを聞いてこども食堂に誘ってみると、みんなに漁師飯をふるまってくれて、子どもたちが大喜び。それから毎回来るようになり、お母さんたちが魚を捌くのをお願いしたり、彼のごはんをSNSでチェックする人が出てきたり、一躍人気者に。彼の料理目当てに、こども食堂の参加者もぐっと増えました。見た目が怖そうなので、子どもたちも私たちスタッフもビクビクしてしまうのですが、優しい一面もある人。今ではスタッフよりも参加者でいたいと、魚の捌き方から料理の味つけまで、スタッフに伝授してくれています。彼の釣った魚を捌くときが一番緊張しますね。
幅広い世代が活躍し、繋がり合えるこども食堂
登壇者から印象に残っているエピソードを伺った後は、7、8人のグループに分かれて、意見交換を行いました。終了後に行った参加者アンケートに寄せられた声の一部をご紹介します。
――いろいろな形のこども食堂があることを知った。
――さまざまな背景を持った人が繋がり、コミュニケーションをとることが大切だと感じた。
――同じ思いでこども食堂を運営する方の話を聞くことができ、継続する意欲がわいた。
――何か自分にできることで、こども食堂を支援したい。
こども食堂を体験しよう!
今回も多様なエピソードから、改めてこども食堂の価値を感じる1日となりました。長崎県には、今回発表されたこども食堂以外にも、さまざまな団体が運営するこども食堂があります。その活動内容も、一つ一つの歴史も個性的。このレポートをお読みのみなさまも、「食べるだけじゃない」を体験しに、ぜひお近くのこども食堂に足を運ばれてみてはいかがでしょうか。
長崎県でこども食堂の活動に取り組まれているみなさん、ワークショップへのご協力をいただき誠にありがとうございました。
【開催概要】
「こども食堂公開ワークショップ 話そう!広めよう!食べるだけじゃない!?こども食堂で起きていること」in 長崎
開催日:2024年3月3日(日)13:00-15:30
開催場所:島原文化会館 中ホール
主催:ながさき子ども食堂ネットワーク、全国こども食堂支援センター・むすびえ
共催:長崎県青少年育成県民会議
後援:長崎県、長崎県教育委員会、長崎県社会福祉協議会、島原市、雲仙市、南島原市
登壇者:数山有里(親子いこいの広場もくもく/佐世保市)、小西治子(島原白山子ども食堂キッズキッチンみんなこんね/島原市)、西田広子(つながる食堂/長崎市)、川井 和(パクパク食堂/諫早市)、加藤嵩啓(101わんさか食堂/西海市)※こども食堂名五十音順
ファシリテーター:湯浅誠(全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長)