山形県

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目の前にいる人の力になりたい。こども食堂を支える思い

「公開ワークショップ 話そう!広めよう!食べるだけじゃない!?こども食堂で起きていること」in 山形 開催レポート

全国47都道府県で実施している「公開ワークショップ 話そう!広めよう!食べるだけじゃない!?こども食堂で起きていること」。20回目の開催地は山形県。2024年11月7日、山形国際交流プラザで開催されました。主催は社会福祉法人山形県社会福祉協議会、共催は山形県子どもの居場所づくりサポートセンターです。現在、山形県には約90カ所のこども食堂があり、食べることだけではなく、子どもの見守りや学習支援を行っているところも数多くあります。今回のワークショップには、こども食堂の運営者や子どもの居場所づくりを支援する行政や企業の関係者など、約60名が参加。これまでの活動を振り返り、子ども食堂の価値や役割について改めて考える機会となりました。それでは、今回も登壇者のみなさまが実際に経験したエピソードをもとに語られた、「食べるだけじゃない」こども食堂の魅力をご紹介します。

小さな一歩が誰かを助ける、こども食堂 

本ツアーで実施するワークショップでは、こども食堂の運営者のみなさんに、1人ずつ     「やっていてよかったと感じるエピソード」「忘れられないエピソード」を伺っています。どのエピソードも、ハッとさせられたり、心温まったりするものばかり。エピソードの一端をご紹介します。

子どもも大人も、みんなをつなぐ約束

地域食堂 南山形みんなの広場(山形市)難波知晶さん:

ある中学生の男の子の話をしたいと思います。その子は、最初は挨拶もできず、みんなで話を聞く際に、突然スマートフォンで音楽をかけ始めるようなこともありました。学校にも通っていなかったようです。それでも、私たちは他の子に接するのと同じように、挨拶をする、話をちゃんと聞くなど、ここでの約束を伝えていきました。彼の様子に変化が現れたのは3カ月が経つ頃。「今日もおいしかったです。ありがとうございました」と言ってくれるようになったのです。それだけでなく、率先して片付けをしてくれるようになりました。地域食堂では一番小さい3歳の子も、自分で片付けをしています。そんな様子を見て、自分もやろうという気持ちになったのかもしれません。そして、初めて食堂に来てから半年ほど経った頃、地域食堂の主催者である私の母が、登校する彼の姿を見かけたのです。彼に聞くと、「地域食堂に通ううちに、学校にも行ける気がしてきた」とのこと。もしかしたら、地域食堂という安心できる居場所ができたことが、彼の背中を押したのかもしれません。 “世界一のおせっかい”が私の目標。これからも一人ひとりに寄り添いながら、子どもたちの力になれたらと思います。

地域食堂 南山形みんなの広場(山形市)難波知晶さん

助けが必要な子の実家のような場所に

かみのやまこども食堂『かえる家』(上山市)萩生田充知子さん・萩生田祐司さん:

こども食堂を始めてしばらく経った頃、近所の子どもから「助けて」と電話がありました。聞くと、家賃が払えず家を出ていくことになりそうだと言います。何とかしなければと奔走している間に、母親は失踪。助けを求めて来てくれたのだから、なんとか引き取ってあげたいと思いました。でも、私には3人の息子がおり、電話をかけてきた子も3人兄弟。どうしようか悩んで、熊本の祖母に電話したところ、「おもさん大事にしなっせ!そん子たちは福の神やけん」という返事。「おもさん」というのは熊本弁で「とても」という意味です。夫もその子たちが「ただいま」と言える場所をつくってあげたいと、引き取ることには賛成。大変なのは覚悟の上で、3人兄弟を引き取ることに決めました。それから5年ほど経ちましたが、上の2人は就職し、一番下の子は高校に通っています。祖母が言った通り、その子たちは私たちにとって福の神だったと今、改めて感じています。子どもたちには気兼ねなく帰れる場所が必要だという思いは、今も変わりません。もしまた同じようなことがあれば、悩まず引き受けるつもりでいます。

ホワイトボード が含まれている画像

自動的に生成された説明
かみのやまこども食堂『かえる家』(上山市)萩生田充知子さん

こども食堂は、地域と若い世代をつなぐ架け橋

川西町こども食堂なかよしキッチン(川西町)佐藤千恵美さん:

娘がまだ幼かった約20年前、地域に子どもの遊び場が少ないことで困っていました。ところが娘が成人した今でも、子どもの遊ぶ場所は少ないまま。それなら自分たちでつくってしまおうとママ友同士で話したことが、こども食堂設立のきっかけです。こども食堂に来る若い世代と話していて驚いたのは、地域の福祉活動を知らない人が多いこと。ボランティアとして参加した民生委員や更生保護委員を通じて、初めてその存在を知る人もいます。私たちの食堂の記事が掲載されるまで、町報を読んだことがなかったという人もたくさんいました。振り返ってみると、私も子どもが小さいときは目の前のことに必死で、地域のことにはなかなか目が向けられませんでした。忙しい子育て世代にとって、こども食堂に来ることが、自然と地域のことに興味をもつきっかけになっているようです。私たちのこども食堂は、お母さんの不在時にお父さんと子どもで利用する世帯が多いのも特徴。家族みんなが地域のことを知る場になっているのかもしれません。住みやすい町をつくっていくには、行政に任せっきりにせず、自分たちで動いていくことも必要です。こども食堂が住民主体のまちづくりに繋がっていけば幸いです。

川西町こども食堂なかよしキッチン(川西町)佐藤千恵美さん

多様な事例がつくる、これからのこども食堂

登壇者のお話を聞いた後は、グループに分かれて、それぞれのこども食堂での取り組みやこれからの展望について話し合いました。その後、グループで出た意見を全員にシェア。下記のような事例や要望が共有されました。

――姉妹都市から来ている外国人を招き、多文化交流の機会をつくっている。

――子どもに簡単な調理を任せていて好評。また来たいという動機になっている。

――高校の部活動でこども食堂を始めた。料理を失敗することもあるが、高校生が試行錯誤する姿が良い場をつくっている。

――土日の開催が中心で、平日夕方に開催しているこども食堂がまだない地域もある。今後、増えてほしい。

――新しい取り組みがなじむ期間には地域性があるように思う。6年継続することで、ようやく地域に受け入れられてきたと感じている。

こども食堂を体験しよう!

今回も、こども食堂を運営される方の熱い思いが伝わるお話ばかりでした。子どものためや地域のために、何か自分のできることをやろうという思いが、人を動かすことを改めて感じられるエピソードだったのではないでしょうか。レポートを読んでくださった方も、「食べるだけじゃない」を体験しに、お近くのこども食堂に参加してみてはいかがでしょうか。

山形県でこども食堂の活動に取り組まれているみなさん、ワークショップへのご協力を誠にありがとうございました。

【開催概要】
「こども食堂公開ワークショップ 話そう!広めよう!~食べるだけじゃない!?こども食堂で起きていること」in 山形
開催日:2024年11月7日(木)14:00-16:00
開催場所:山形国際交流プラザ 山形ビッグウイング 2F 交流サロン
主催:社会福祉法人山形県社会福祉協議会 
共催:山形県子どもの居場所づくりサポートセンター、全国こども食堂支援センター・むすびえ
登壇者:萩生田充知子・萩生田祐司(かみのやまこども食堂『かえる家』・上山市)、佐藤千恵美(川西町こども食堂なかよしキッチン・川西町)、疋田司(庄内ちいき食堂、庄内地域)、難波知晶(地域食堂南山形みんなの広場・山形市)、岡部幸子(地域食堂「楽」・山形市)※こども食堂名五十音順
ファシリテーター:湯浅誠(全国こども食堂支援センター・むすびえ)